「あー喫煙ー」
授業開始のチャイムが鳴った後の屋上で、見慣れた彼の後姿を見つけた。
開口一番降らせた言葉に、彼は振り向き笑う。
「なんやちゃんか」
忍足は悪びれもせず、おいでおいでと手を振った。
「いいのかなー煙草なんか吸って。監督に告げ口してやろっか」
言うと忍足は、少しバツが悪そうに笑った。
「自分かてサボってるくせに。たまの気分転換やん。」
単なるサボりと喫煙じゃ罪の重さは違うだろう、と思いながらももとより告げ口なんかする気は微塵もないのでその話は終わりにした。忍足の横に腰を下ろすと私が忍足は煙草をコンクリートに押し付けた。忍足のこういうところ、なかなか同年代の男の子たちにはできないことだと思う。
いいよ、吸ってと言うと、曖昧な返事をした彼は煙草を箱から一本取り出したが火を点けることはせず、手持ち無沙汰に手の中で弄んでいた。
風のない穏やかな午後だった。本来自分が出ていたはずの体育の笛の音が遠くで聞こえる。
しばらくそのまま二人で空を眺めていた。
不意に涙が零れそうになって下を向いた。
「跡部ってさ。真面目だよね」
「そうやな」
真面目と言うと何か語弊があるような気がしたけど、忍足はそのニュアンスをわかってくれている気がした。
隣で、忍足がライターに火を点ける音がした。やがてわずかに匂いも届いてくる。
「ほんと、真面目…」
そういうとこが好きになったんだって、そんなこと自分が一番わかってるのに。私って、本当にバカだな。
折り畳んだ膝と、胸の間に顔を埋めてしまった私の横で、忍足の吸う煙草の煙がゆるりと流れた。
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